契約〜繋がる身体〜
〜オリジナルBL小説〜

著者:核羅堕

!警告!
この小説は18歳以上を対象とします。18歳未満の方は移動してください


 地下室には押し殺した喘ぎが響いていた。
 快楽を訴えて上擦った声はまるで誰か知らない人間のもののようだとルシェイは思う。しかし、規則的に突き上げられるたびに零れるそれは、まごう事なく、自分のものだ。
「……ふっ、あっ……、やめっ……」
 後ろから押さえつけられるように組み敷かれたまま、ルシェイは何とか自由になろうと身体をよじる。その拍子に、かろうじて纏っていた緋色のローブ――学園でも優秀な魔術師である証だ――がずり落ちて、少年らしい肉付きの薄い身体のラインが露わになる。白い肌は夜半の月のように闇に映えた。
 不意に後ろでにやりと笑う気配がして、逃げた腰を押さえつけられて奥まで貫かれた。
「――んああああああっ」
 耐え切れずにルシェイは達した。すでに幾度となく絶頂を迎えさせられているルシェイのものからは、ほんのわずかに雫が零れただけだ。長時間の陵辱に身体は疲れきっていた。それにも関わらず、ルシェイはさらに深い快楽を求めてかすかに腰を揺らすのを止められないでいる。
「すっかり後ろだけでイクようになって。君って淫乱なんだね」
「あ、ちがっ……」
 再び笑う気配がして、繊細な指がルシェイの前を弄ぶ。じんっとしびれるように下腹部から広がる感覚にルシェイは息を詰まらせる。涙のにじむ瞳の端で、ルシェイは自らを犯している男の様子を窺った。それは、端整な顔立ちの青年だった。彼は、ルシェイの反応を楽しむように責めを加えている。愉悦に細められた青年の金の双眸は、子供のような好奇心と贄を屠る獣のような残酷さに彩られていた。青年の身体はひんやりとしていて体温を感じさせないのに、彼の唇や指先が触れるたびに、ルシェイの身体には狂おしいほどの官能の炎が灯るのだ。
 (――こんな悪魔なんかに)
 悔しくて石造りの床に爪を立てる。そこには様々な秘薬で解いた色粉で複雑な文様が描かれている。一種の魔法陣だ。異なる世界のあちら側とこちら側を繋ぐ、“門”の魔法陣。魔術の知識を持つ者が見れば、それがどれほど高度な知識と創意工夫に満ちたものであるか理解しただろう。
 ルシェイが召還術に手を出したのは、自らの実力を頼んでの事だった。魔術の中でも召還は高等魔術に属するものであり、その使用はルシェイのような魔術学園の生徒には禁止されていた。多くの生徒はその掟に黙って従った。いや、破りたくとも、召還術の行使など、未熟な学徒達にはどだい無理な話だ。しかし、その中でただ一人、ルシェイだけがそれに反発した。なぜ、召還術を教えないのか?そう率直な疑問を教授たちに投げかけた。帰ってきた答えは、単純なものだった。
 異なる世界の存在と交わるのは危険だ。だから許可できない、と。
 そんな教授たちの忠告をルシェイは鼻で笑った。それと同時に、子供扱いされているようで苛立ちを覚えた。
 だから、ルシェイは召還術を試した。自力で文献を紐解き、術の理論を頭に叩き込み、幾度もシミュレーションを繰り返し、注意深く準備を重ねた。理論そのものは、確かに高度で理解が難しいものだった。しかし、できなくもないというレベルだ。ルシェイはなぜ学園の教授たちが召還術を危険視するのかがわからなかった。主席であるルシェイは、危険で高度な魔術を特例として使用を許されていた。ルシェイの見立てでは、召還術の難易度も危険さも、他の術と大差なかった。
 事実、ルシェイが試みた召還術は成功したのだ。それも、完璧なまでに。
 ルシェイの呼び声に応えて現れた存在こそが、この青年だった。そう高位の存在ではないようだが、あちら側の存在――魔族と呼ばれる者には違いない。
 (……僕は上手くやった。それなのに、どうして……)
 青年の手で再び反応し始める身体を持て余しながら、ルシェイは唇をかみ締める。まるで性質の悪い熱病にでもかかったように体中が熱くて思考がまとまらない。
「……ふ、あ…、はぁ……」
 甘く求めるように吐息が零れる。こんな快感があるなんて、数時間前までルシェイは知らなかった。初めてだったというのに、青年の巧みな愛撫は面白いように快楽を引き出し、ルシェイの身体に刻み付けた。痛みを与えられればこの行為が無理矢理なのだとまだ自分に言い訳できたのかもしれない。しかし、こうして快楽だけを与えられれば淫らな自分の本性を突きつけられるようで惨めだった。
「これだけヤってんのに、まだ結界維持するだけの気力があるんだ?」
 笑いながら青年がルシェイの胸元を弄ぶ。そのわずかな刺激にも小刻みに身体を震わせながら、ルシェイは流されまいと必死に意志の力を呼び起す。青年に好き勝手に犯されてなお、ルシェイにはたったひとつだけ有利な点がある。事前に入念な準備をしておいたお陰か、こんな状況になってもなお、魔法陣は結界としての機能を保っている。つまり、青年はそこから外に出る事はできないというわけだ。そして、この中にいる限り、召還された者は契約に縛られるため、召還者の命を奪う事はできない。
「君もいい加減、強情だよねぇ」
「っん…っぁあ!!!」
 一度感じる箇所をえぐるように突き上げて、青年は押さえつけていたルシェイの身体を離した。ゆっくりと青年のものが抜ける。自らが放ったものでぐちゃぐちゃに汚れた床に、ルシェイは身体を投げ出す。ひんやりとした石畳の感触も荒れ狂う熱と疼きを治めてはくれない。理性ではこれ以上は壊れてしまうと思っているのに、身体はいまだに快楽を求めている。ルシェイはぎゅっと自分の身体を掻き抱いてそれに耐えた。二の腕に爪が食い込んで赤く跡を残す。痛みは気休め程度にだが、ばらばらになりそうな心と身体を繋ぎとめてくれる。
「気に入ったよ」
 再びくすっと青年が笑った。
 そして、次の瞬間、仰向けに転がされ、足を大きく開かされる。
「――っ!?」
 わけもわからず、ルシェイは瞳を大きく見開いて青年を見た。獣のように交わっていた先ほどまでと違って、こうされると全てが青年に見られてしまう。張り詰め震えているルシェイの自身も、淫らに求めている後ろの穴も。咄嗟に足に力を入れて閉じようとしても、疲れ切った身体は青年の力に逆らえない。不意に硬くなった青年のものを突きつけられてルシェイは身体を竦めた。
「やめろっ……」
「やめない。――言ったろ?君の事、気に入ったって」
「……ぁっ…あぁっ!」
 青年は深くルシェイを貫く。そして、恋人にするかのように優しくルシェイを抱きしめてその白い肌に口付けを落とす。ゆっくりと腰を使われてルシェイは喘いだ。気持ちいい。まともに息をする事も許されず、すべてが快楽に塗りつぶされて目の前が真っ白になる。
「君、本当に可愛い。でも、今日は時間がないからそろそろ終わりだね」
「ぅっ……」
 ぺろりと舌で、色づいた胸の先端を弄ばれ、ルシェイは身体を震わせた。こんな事は嫌なはずなのに、身体は青年を飲み込んで、与えられる刺激にあわせてきゅうっと締め付けてしまう。自分の身体と青年の腹の間で挟まれてやわやわと刺激を与えられているルシェイのものは、すぐにでもはじけそうに張り詰めていた。それを知ってか知らずか、青年の動きが激しくしなる。それが青年自身も欲望を追うものになっているのに、ルシェイは気付く余裕はない。自らの中で猛ってゆく青年の熱にただ翻弄された。
「……だめッ……っぁあ、あああっ!!」
「……っ」
 ルシェイが達すると同時に青年も精をルシェイの中に迸らせる。満足するまでたっぷりと、青年はルシェイの中を犯し、精を注いだ。
 それから、ようやくルシェイから離れると放心している彼の頭を優しく撫でた。
「俺の名はヴァリス。――また欲しくなったら呼んでね」
 悪魔にしては優しい声を聞きながら、ルシェイの意識は闇に堕ちた。


 つづく?


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