アダルトはピンチな突然に
〜オリジナルBL小説〜

著者:葉月たまの

!警告!
この小説は18歳以上を対象とします。18歳未満の方は移動してください


 もう……何でこんなことになっちゃったんだろ……。
 おれは泣きそうな顔で、目の前の男を見上げた。
 おれはその男に押し倒されて、その……今にも、……されそうになっているところだった。
 僅かながら身に纏っている下着が、辛うじておれを守っている状態だった。
 本当に、何でこんなことになってしまったのだろう……。
 それというのも……あの賭けが原因だった。

「先輩!」
 おれはいつものように、先輩に駆け寄る。先輩、それはおれの世界で一番好きな人だ。
 先輩はおれの顔を見ると、嫌そうな顔をする。そして、しっし、とおれを追い払おうとする。
 しかし、こんなことはいつものことだ。おれはめげずに先輩の腕にぎゅーっとしがみついた。
「先輩、だーいすき♪」
 おれは頬を先輩の肩に押し付ける。先輩はおれを見下ろして、困ったような声を出した。
「まったく……本当に翔ってば、めげないよな」
 そう、先輩も男の人だ。同性の相手におれは恋をしてしまった。恋をしたときは、自分の感情に驚いたものの、でも、好きになったのはしゃーないと割り切ることにした。そしておれは先輩に猛烈にアタックを開始した。
 周りの友達はそんなおれに最初は引いて見ていた感じだったが、今ではもうすっかり慣れてくれた。おれが男なら誰でもいいわけでなく、先輩だけが好きだ、というのが分かったからみたいだ。
 先輩も先輩で大物だった。同性のおれに言い寄られても、まったく気にしないように、適当にあしらっていた。正直、先輩に嫌われていたらかなりつらかったから、例え恋が実らなくても、今の状態はそれなりに幸せだった。
 でも!
 もっともっと先輩と親しくなりたい。その気持ちは今でも凄く強い。
 何か、口実はないかな……。
 一気に、2人が両思いになる方法……結ばれる方法はないかな?
 おれは先輩と一緒に帰りながら、そんなことを考えていた。

 そして偶然にもその機会はやってきた。校内の球技大会、おれのクラスと先輩のクラスは初戦でぶつかることになった。当然、その話題はおれと先輩の間でも出た。
「いやだな……先輩と戦うなんて、おれ、できないよ。それより先輩と一緒に戦いたいな」
「手加減はしないぞ? 翔を狙い撃ちしちゃる」
「えーっ、先輩のいじわる!!」
 おれはプーッと頬を膨らませる。先輩はもうすっかり自分のクラスが勝つ気満々みたいである。そのとき、おれは名案が浮かんだのだ。
「じゃあ、先輩、賭けをしない?」
「賭け? どんな賭け? まあ、どんな賭けでものるよ」
「ほら、校内にBL専門のアダ○トビデオ同好会があったよな? 負けた方はそこに出演する、というのはどうかな?」
 それを聞いて、先輩は一瞬呆れた顔をした。それから、ニヤリと笑う。
「よし、脱がせちゃる」
「えーっ、先輩の方が脱ぐんだってば」
 といいながらも、おれは内心、しめしめ、と思った。
 先輩が負けたら、きっと先輩は、知らない男に……されるのを嫌がる。そうしたら、おれが相手役として名乗りでるのだ。賭けに負けた先輩は、他の人とするくらいなら、おれと……という展開になるはず!
 しかし、そう思惑通りいかなかった。先輩の運動神経を侮っていた。先輩のクラスは先輩の超人的な活躍により、おれのクラスは惨敗した。おれ? おれのことは聞かないでくれ……おれは運動神経、普通並にはあるけど、先輩みたいな超人と比べたら、本当に普通並だから……。普通の運動神経を持ち前の元気でカバーしている、それがおれだから……。
「さてと、約束、守ってもらおうか♪」
「やだっ!! 最初の相手は先輩がいい!! 先輩、先輩ってば!?」
 おれは必死に抵抗したものの、ずるずるとアダ○トビデオ研究会の前まで引っ張ってこられてしまった。
 そして約束したよね、と言って、渋るおれを無理矢理撮影の状態までもっていったのだ。

 おれが強く抵抗しなかったのはもしかしたら先輩が気が変って、相手をしてくれるかもしれない、という内心の期待があったからだ。
 しかしおれの前に出てきたのは、知らない男だった。その男はおれの服をゆっくりと脱がしていく。
 いやだ、いやだ、先輩以外の人とするなんて、おれはいやだ。
 おれは目で先輩に必死にSOSのサインを送る。しかし、先輩はニヤニヤして面白がって見ているだけで、おれを助けてくれようとしなかった。
 男はおれの身体のあちこちを指で触れてくる。
 だめ……だめだ!! 先輩以外の人に感じちゃだめなんだってば……。と思いつつも……気持ちいい……。でも、こういうことされるのは、先輩じゃないといやなんだ……。でも、気持ちいい。おれの理性はもう吹っ飛ぶ寸前だった。
 そのときだった。
「あー、ごめん!!」
 突然、先輩の大声がスタジオに響いた。
 おれは涙目で、先輩の方へ目を走らせる。って、おれ、泣いてる? 嘘泣きじゃなくて……マジ泣きしてる?
「この撮影、その子の意思じゃないんだ。俺が無理矢理、引っ張ってきたんだ。だから、その……勘弁してやってくれないかな?」
 先輩は監督に必死に頭を下げている。先輩……いいの? いいの? おれ、もうこんなこと、しなくて……?
 撮影は中止になった。先輩はおれに服を投げてくる。
「ほら、早く着ろよ。いやだろ? そんな格好でずっているのは?」
「先輩!!」
 おれは自分が下着姿、ということも忘れて、先輩の逞しい胸の中に飛び込んでいた。
 先輩、好き、好き! 大好き!
 やっぱりおれ、先輩が心底好きなんだ……。こういう優しいところ、見せられると、つくづくそれを実感させられた。

 あの撮影からしばらく時は経ったが、相変わらずおれの先輩への片思いは続いている。
 おれが先輩の前に行く度に、先輩は嫌そうな顔をする。
 でも、いいんだ。その表情は、先輩の本当の気持ちじゃない、と分かってるから。
 先輩とおれは結ばれる。おれはそう信じることにした。

 おしまい★


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